ある街のある巨大なビルの裏手。薄汚れた壁面の一部。
片隅に「靴ミガキをする門番」が坐っている。
どの街の靴ミガキもその街のその場所にふさわしいように、その「靴ミガキ」もその場所に極めてふさわしい。
壁面の他の片隅に「欠勤中の公務員」がヘバりついている。
彼は今、さる重要な人物を追跡中なのである。
もしくは、さる重要な人物に追跡されている最中なのである。
少なくとも彼はそう考えている。
やがて、どこか遠いところで、その街の夕刻を告げるチャイムが鳴る。
「こんばんは。どうやら……日が暮れました。
街はこれから、嵐のように夜の方へ雪崩れこみます……」
獣の仕業初の別役作品は別役初期の傑作「門」。
身体がたどたどしく沈黙するとき、私たちは何を語ればいいのか──