獣の仕業

結成2008年。団員数7名。物語と舞踏を組み合わせた舞台表現を、東京の小劇場を拠点に活動。
音楽的な発話と舞踏的身体を採用し、等身大の表現を超えて心に触れる作品を追求している。
強い緊張と弛緩の繰り返しから作られる様式美に定評あり。この手法を用いてオリジナル・古典戯曲問わず上演実績を持つ。


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隣にいる人の服の擦れる音を、聞いた事はありますか?
居なくなってしまった筈のあの人の、夕暮れに伸びる影を見た事がありませんか?

こんにちは。獣の仕業主宰の立夏です。この度は、訪れて頂いてありがとうございます。

私達が獣の仕業を始める事になったきっかけは、明治学院大学演劇研究部の08年卒業公演「春に就いて」です。
その時に当時の自分の中で凄く納得した作品を作る事が出来ました。
千秋楽では、お客さんからの拍手がずっと鳴っていて初めてそんな経験をして。
こんな作品を・お客さんとの出会いを、これからも続けていきたいと・そう思いました。

あれから4年程経ちましたが、私はまだ舞台のすぐ隣にいます。
獣の仕業の結成メンバーは、同時の大学の同期が殆どです。沢山の人達が作品を見て下さり、同時にまた心境も少しずつ、変わって参りました。

私達は始めから今までずっと、社会人劇団です。学生のメンバーが居ますが基本的には団員は皆、平日は会社勤めをしています。
それは私達の特徴であり、弱みであり、けれど強みでもあり、何より私達の誇りの一つでもあります。
沢山の時間を使う演劇人が、優れた芝居を作るわけではありません。
そして同様に、社会人がフリーターより偉いという事も決してありません。
仕事に優劣がないのと同じ様に、芝居の作り方にも当然正解はなく、そして社会人でありながら私達は芝居を作っている、と言うだけの事です。
そして私達の作る芝居は恐らく、そうでなければ作れないものです。

「芝居は趣味ですか?」とたまに聞かれます。私は「違います」と答えます。
「芝居で食べているのですか?」とも聞かれます。私は「いいえ」と、答えるのです…。

私個人は、平日働いて・仕事をして、その暮らしの中で感じたことや葛藤を大切にしたいと思っています(これは極個人的な決め事です)。
仕事は悪戦苦闘の繰り返しですが、楽しいものです。
社会人5年目になりますが、未だに、自分にとって劇団で芝居を作るのはとても自然なことなのに対して、社会で仕事をすると言うのは凄く苦手なことです。
上手く行かないことが多いし怒られてばかりです。それでも、そんな毎日が自分にとっては社会にフィットしていく手段であって、芝居と同じくらい大切なものです。
自分が「いまここ」にフィットしていく為に、です。

普通に仕事をする・それがどれだけ大変なことか、どれだけ尊いことか。
普通の人達、何気なく私の隣にいてくれる人達、彼らが一番凄いのです、私はそれをずっと強く思っていたいのです。それを忘れたくありません。

日常の風景の中で、私達は数多くの者に気が付いています。
例えば、会社にいて、何気なく手に触れたコピー用紙の手触り。
草臥れた満員電車の中で聞こえてしまった、知らない誰かの内緒話
その中の葛藤や、思いを、私は届けたいと思っています。そう、貴方に・です

隣にいる人の服の擦れる音を、聞いた事はありますか?
居なくなってしまった筈のあの人の、夕暮れに伸びる影を見た事がありませんか?

私達はそれを、知っています。それが耳を澄ませばすぐに聞こえる事を。
私達はそれを、知っています。その影は、気が付かなくてもすぐ側に寄り添ってくれている事を。

そしてそれを、私達の舞台で誰もが見える形に出来たら。

獣の仕業の芝居の上演時間─大体80分(短いです)その中で・まるで、
それが81分にでもなれば、もし叶うなら、10年や20年もの時が、舞台上に立ち現れるなら、
それが私達の目指す舞台です。

私達は日常から出発します。大切な人の、大切な時間の、何気ない所作からスタートします。

それを私達の心の動きにより近く、記号や言葉や「こうあるべき」も超えて、もっと貴方と私が、もっとずっと、自由になれますように。

そうしていつか、貴方がふとした時に、私達の作ったその風景を、一瞬でも思い出してくれていたらと思い、届けてゆきます。

2012/07/12 立夏